何も見ていない


世界が倒錯している気がする
世界が混乱している気がする
世界がから回っている気がする
それとも俺だけが

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なかなか力がある。


何のために、何のために、
用意される選択肢は日ごとに増して
口を開くころには話すことさえ覚えていない
目はぎょろぎょろと回って定まらず
何のために、何のためにという問いだけが残る

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遺跡の前に一人佇む
風化して崩れ、苔むしてひび割れ
掘り返された死体は宝物みたいだ
そんないつかの情景が
起きて食べて寝て、また起きて
変わらず後ろに張り付いている
踏みにじられた頭の後ろは
見えないからってもう興味がない
どこもかしこも遺跡だらけだ
理想でさえも、生まれたとたんに瓦礫の小石になって
希望の残るエンディングだって
俺のためのものじゃないんだ

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一体何がそうまで俺を駆り立てたのか
俺がその、眼前の壁になりたいと思ったことは一度もないが
それの一部であるかのような度々の錯覚で
まるで理解者でも得たかのように浮かれた
いはしないと知りながら、きっと夢でも見たのだろう
無音を保った暖かな部屋で一人
全て自らのために自ら用意した世界に身を包み
無感情に浸り、停止した思考を受け入れ
壁の亀裂に過去を感じる
それ以外の、なにがいるだろうか

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毎日二つの重しを貰い
片側ずつの天秤にかける
重さは違うはずなのに
潰して均すみたいに平行線が出来上がり
代償を求めるように音を立てて傾く

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今でもなく、この先でもなく
あの日作られた些細な細胞の集合が全体を支配し
足は切り落とされ、手は同じ動作を繰り返す
通り過ぎ去られ、誰かの通り道の下で
二度と踏まれることのないのを眺める
いつしか道であったのも忘れられ
雑草なんか生えたりして
亀裂が入って、抉られて、
ぽっかり穴が開いたって
きっとそこは道なのだ

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先週見た夢。
雪の積もった広い土地、曇り空。建物もあった。麻酔は大人の人間を殺したようで、片膝つかせて立たせていた。
そこへ何人かの子供がやってきた。
1人の少女はふざけて死体の頭を蹴って死体を倒した。麻酔は静止するけど、少女はやめない。麻酔は立ち上がって、逃げる少女を追いかけて捕まえて、同じように石で殴った、もしくは殴ろうとした。
お前も同じようにしてみようと、言っていた。

麻酔には麻酔なりのルールがあったんだろう。
夢の中の話だけど。
それにしても、麻酔に追いかけられたらたまったもんじゃないね。怖い。



気づいてしまってからが全ての始まり
忘れることのできないきっかけなんか使っちゃって
何の気なしに見るたび触れるたび
混乱させ、躓かせ、挫いて、掻き回して、やり直しの繰り返し
口にすればそれを解く手立てもなくなる
かもしれない、なんて、呪いの言葉

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すっかり剥がれた化けの皮を
急いで作り直す間もなく
それならいっそという風に
へばりついて剥がれず
削いで落とすこともできない内側の悍ましさを
結局自分自身に対してまでも
そいつで隠して嘲ってみせて
近づくつもりがいつの間にやら
遠く遠くへよろめいていく

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掘って、掘って、掘って
ここは、いつかの今だった
ある日覆いが被されて
それは重くて動かせず、長い眠りについていた
見られないこと、触れないこと、陽の目を浴びないこと
覆いは、皮みたいにくっ付いてとれない
言葉の分かる距離は、とっくにずれてしまった
もう、追いつくことも、できない
そこで、俺が、止まってしまえば、
俺も、そこで、眠れるだろうか

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蓄えられた快さを食いつぶして
日々を凌いで
決まり事を作って、それを守って
そうして細かな達成感のようなものを積み重ねて
何かをした気になっている
同じようにそれらを繰り返して
違っていたはずの諸々
いつの間にか、見分けもつかなくなっている

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小さな墓場を守っていたんだ
周りの草も木も、全部見ないことにして
だけどだめだったんだ
どんなに、膝を抱えるくらい小さな空間でさえ
簡単に信じることができなくなる
安心だなんて、今にしてみれば
笑うこともできないくらいに大げさな嘘だった
なんで、なんで、なんで、
ひたすら、奥の底から湧き上がる嫌悪感に混乱する
ああ、ああ、ああ、
泣きながら、もう一度墓を建てる
一から儀式
時間がくれていた崇高もなくなった
作り上げた偶像はぶち壊れてしまった
それでも俺は忘れる振りをして、
いつか本当に忘れるようにと
繰り返しの中に
過去の片鱗を求める

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儀式を遂行するまでは、感情を滅茶苦茶にぶち壊されても、それをこなすしかない
そうしないと、生きるに支障だ

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階段の下から、引き攣った笑い声の塊が鳴る
意味のないそれらは不気味な奇声そのもの
そこにたのしさもなければ、集合欲もない
そんなにどうしてひねくれて
いったいどこからひねくれるのか
最初から、ここには無音の一本道だ

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夢か真かと言いたがるけれど
その時今であった以上は
俺の爪を引っぺがしたのは
紛れもなくそこにいた
命令が下るわけではない
後ろから追い立てるわけでもない
ただそこではち切れて
中身をぶちまけて
押し寄せてくるだけ
そして、ただ単に俺は
それにのまれたくなかっただけなんだ

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口の端に指を突っ込んで引き延ばしたところで
あげた手も疲れて口角は下がるばかり

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安らぎのはずのメロディが
その意味的な安らぎさによって不安を滲ませ
蛆虫みたいに湧いて出る情報の数々
脳みそ分をゆうに超えて
もう道筋もとびとびで、記憶にとどめる瞬間もなく
最後にどうにか理解できる言葉の範囲で
細かく刻まれて箱に詰められた自分に辿り着く
だけれどそれに、ついには特性が耐えられず
ガチャンと受話器の音で俺を叩き起こしてお終い

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すべきことがいくつかあるのに
今でなくてもよいと
先延ばしにすることが増えた
悪い傾向と思うも
それさえ先延ばしにしている

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一本の毛先が肌に触れるあの気持ちの悪さすら
なんでもないみたいにどうでもよく
瞬きもせずに安易な視線を固める
ぼやけた視界がさらにぼやけるのも無視して
眉間の奥の言葉の途切れるのを待っている

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果たしてそれは偶然か
心的な圧迫に耐えられずに
理性の制止の裏側で
邪な祈りが続く
早口で犠牲をまくし立て
大事なものまで平気で差し出す
薄情な悪魔はどちらにいるのか

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笑顔の俺は何も言わない
笑顔の俺からは笑顔だけが出てくる
明るい声、ちょっとしたユーモア
笑顔の俺は喜びを受け入れる
笑顔の俺は卑屈にはならない
口をつぐんで ひたすらに微笑む
大事なカプセル剤に全部を貯め込んで
後で飲み干すから
大きくなる 大きくなる 大きくなる
握りしめる手からは血が出そうだけれど
笑顔の俺はそんなことはしないのだ
大きくなる 大きくなる 大きくなる
口に入れる頃にはきっと
破けて舌も溶けそうだ

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見えること
知らないこと
否定されないこと
その逆

笑うこと
皮を剥ぐこと
不安

正の世界
真の世界
求めること
諦めること
否定すること

捨てること
失うこと

安心
何もないこと

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どこへ行くのか行方も知れず
ただそこにあるからと
頭痛を片手に最短の歩幅で歩く
次の一歩はとっくの昔に準備済み
冷めた紅茶を温めなおそう
遠く遠く先の頁に書いておこう
怠ることのないように
準備は忘れず万全に
順番に

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201601-201701頃